演劇事始

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今日はおうちに帰らない――『大人のけんかが終わるまで』


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みんな、大変。

『大人のけんかが終わるまで』(2018.07.19  19:00~@シアタークリエ)

 


役者さんの細かい演技が見事で「演技が上手いなぁ……」という小学生みたいな感想をもって家路についたと同時に、翻訳劇を上演する時、元の戯曲にあったものをどこまで残し、何を刈り取るのかって本当に難しいんだろうなと感じた芝居だった。


数年前、市村正親さん・益岡徹さん・平田満さんの3人芝居で『ART』という劇を観た。

戯曲者は同じ、ヤスミナ・レザ。

 

これがもう、とても面白かったのです。今回のお芝居と同じで、出てくる人達がずっと喧嘩してる話なのだけど。

男性の友達グループの1人が、大金をはたいてよく分からない絵(白い絵の具が塗られたキャンバスに、白い線が描いてある絵)を買ったことで別の友達と喧嘩になる話。

「ART」の喧嘩の行き着く先は、「本当は何一つ交わってないけど、それはそれとして友達でいたいから落としどころを見つけてやっていく」様に見えて、その様(登場人物同士の関係性の変化・変化しなさ)が可愛らしく思えた。

 

しかし今回の「大人のけんかが終わるまで」はたぶん、私が出てくる人達の関係性に興味を持てなかった。それでつまらなく思えたのだろうと、今では思う。

もっと言えば、アンドレアとボリスのこれからに興味がもてない、というのが感想のほとんど全て。

後は

・暗転が多すぎること(ただでさえ喧嘩が沢山出てきて煮詰まって見えやすい劇のテンポを遅く感じさせる)

・盆がゆっくり回転しつつ劇が進行するという演出があまり効果的にはみえなかったこと

・音楽単体は素敵だったんだけどそれぞれの繋がりがあまり見えなくて観ている側の集中が切れやすかったこと

・「落としどころを見つけられた人達」(イヴォンヌ達の一家)と「落としどころを見つけられない人達」(アンドレアとボリス)の対比において後者側の関係性の変化が見えにくかったこと

などなど、幾つかのれなかった要素がある。


「ART」では高いお金を出して絵を買った人と、高いお金を出して絵を買うことが信じられない人が出てきて、前者が落としどころを用意するんだけど、アンドレアもボリスも相手のことを思いつつやっぱり自分のことで精一杯でそれが難しいという関係が幕開けから最後まで同じなので疲れちゃったかな・・・・・・

 

登場人物個々の魅力はとてもある芝居で、‏アンドレア(鈴木京香さん)が本当に愛らしくって大好きにならずには居られない人なんですよね・・・・・・。本当にキュートで、情緒不安定で、こういう人が居たら好きにならずにはいられないだろうな、というキャラクター。
ボリス(北村有起哉さん)のセクシーさも凄まじく、こういうだめで色気があって自己憐憫にひたる男をやらせたら北村さんの右に出る人はいないんじゃないかと思う。

 

 途中、アクシデントだったのか、北村さんが持っているシャンパングラスの持ち手が折れてしまったんだけど、何事もなかったように芝居を続け、グラスを観客から見えないように置いてたのが凄かったなぁ。藤井隆さんもさりげなくそれをアシストして、割れたグラスの破片を回収してました。


アンドレアがイヴォンヌに優しいのは自分の母親に対する後ろめたさがあるのかなという様に見えた。
イヴォンネとアンドレアは同じ側(この日常を壊したい、面白く生きたい)に立っている他人同士で、こういうキャラクターは好きです。
序盤、アンドレアが「普通の大人で居て」と娘にスカートの短さを指摘された話をする場面が印象的で、言われた言葉をぽつりと口にする彼女の引き裂かれ方と、ボリスの「普通に見えるよ」という優しいんだけどそういうことではないんじゃないか・・・・・・、というフォローが良かった。

普通の大人でいたくねぇな~って日々思ってる人間に突き刺さる。


アンドレアも安定剤に依存してるし、皆タバコや母親や女性に何かしらかの依存をして立ってる、というのが本当にあるあるだなと思う。

認知症のイヴォンヌだけ何かに依存してない様に見えるのが面白い。

追記:自分で書いておいて?って思ったけどイヴォンヌも「物」(記憶を書き留めておく手帳=アイデンティティを保持してくれる物)に依存はしているのかな。

イヴォンヌが落としていった手帳に書いてあることをボリスが読み上げて嗤って、それをアンドレアがとめる場面、良かった。同じ様なことで嗤えてた間柄の筈なのに、いやそこは嗤えないわ……というのが露になるのがリアル。

麻実れいさんはイヴォンヌというキャラクターをとんでもなく魅力的に演じてて、あの困った人なのに愛らしさが止まらない、いつだって気高くあろうとする様はすごい。


終盤、口論になってアンドレアがボリスの背中を叩きながら、スローモーションで二人とも地面に倒れ込むところに白い羽の欠片が吹き付けられる演出があり、2人共どこにも行けないし、しがみつく様に一緒に居るしか仕方がない、という感じではあったんだけどそもそもこれ、そんなにシリアスなお話なのだろうか???という居心地の悪さもあった。

基本的に怒っている人同士の会話ってもっと面白くもできたんじゃないかな、と勿体なく感じた。

笑えるシーンもあって、藤井隆さんの役どころが「とりあえずその場を何とか維持しようとする」人で大真面目なんだけどずっとズレっぱなしでズレに無自覚なので可笑しかった。