演劇事始

演劇や映画や、みたものの話

2023年の演劇まとめ:感想とベスト3

2023年に観た演劇(計26本、その内配信が1本)のまとめと感想

年間ベスト3

1位:マチルダ
2位:アナスタシア
3位:SHINE SHOW!

今年は、バンズ・ヴィジットやチェーザレも含め、ミュージカル豊作の年だった。
チルダは原作のシニカルな視点を含めての舞台化で子役の熱演も含め、大変良かった。私が機能不全家族を扱った作品に弱いのもある。
アナスタシアはCOVID-19の流行で一度観る予定が消えてからの念願の舞台。盤石なキャスティングで父権からの解放を描いていたと思う。
SHINE SHOW!は、カラオケ大会を舞台にしているだけあって、歌の場面でのカタルシスがあるのと、とにかくずっと薄っすら面白く、コメディとしてよく出来ていたので選出。

以下、各月に観た演目とその感想です。

1月

守銭奴

確か最前列で観劇。
「リチャード三世」「真夏の夜の夢」を演出したプルカレーテ演出の喜劇。
家の壁がビニールだったり、最後の場面が荒涼としていたり、舞台美術がキッチュで好き。
ドン・トーマ・ダルブルチの一家が難破船から全員生き残っていた!という古典ならではのご都合主義にはわらった。
若い娘と結婚しようとしていたアルパゴンもドン・トーマ・ダルブルチも結婚せずに終わり、アルパゴンは最後、金貨が入った小箱を愛おしげに抱いて終わる。
金で孤独ではない状態を買うことはできないという展開や、金に夢中になっているアルパゴンは果たして不幸なのか?という終わり方も好みだった。
フロジーヌを演じていた壌晴彦さんの朗々とした声が忘れられない。

チェーザレ

中川晃教主演のミュージカル。原作漫画は未読。
開幕早々「チェーザレ・ボルジアは私生児〜罪の子〜♪」と歌い上げられるので本当に嫌な時代!!!!!!!!!!と心から思った。
ピサの大学生たちの所業、今だと5秒で退学になりそうだった。
曲数が多いし、説明も地名も人名も多いので演者の負荷が凄そうな舞台。
中川さんと藤岡さんの組み合わせが好きなので二人の場面が思ったより多くて嬉しかった。

歌唱力が①めちゃくちゃ上手い ②聞ける ③ハラハラする
の三段階くらいに分かれていて、全員がごた混ぜになってるから曲を聞き入った次の場面でめちゃくちゃハラハラする、ということが起こっていた。

アンジェロが宝塚娘役がやりそうなことを全部してくれるので、宝塚に合いそうな演目だなと思った。唐突な祭りのシーンとかめちゃくちゃ宝塚っぽい。
メディチ家のジョヴァンニがきゅるきゅるしてて可愛かった。
もっと人がバンバン暗殺されるのかな?と思ったら全然人が死なないのでびっくりした。
映像を使った演出が沢山あったが、急な実写乗馬シーンがめちゃくちゃシュールで笑いそうになった。原作読んでみると、大変忠実な舞台化だということは分かった。
終わりの方に流れる映像も世界遺産の特集みたいで面白い。2幕初めで急に「これからミュージカルが始まるよ!!!!!」って踊り歌うテンションになるのもややトンチキ。
全体的に歌が歌謡曲っぽくて、中川晃教の歌唱力と声ならもっとグランドミュージカルっぽく歌い上げる曲のほうがはまるなぁと思った。
でも全体的にどこかおかしいテンポとか描き方が好きでDVD買ってしまった。

宝塚花組 うたかたの恋/ENCHANTEMENT(アンシャントマン)

何も知らずに行ったら、エリザベートの息子の話で驚いた。
うたかたの恋」は初っ端から大階段を赤く染め白い鷲が浮き上がる演出がすごい。オーストリアに飲み込まれてる二人。
17歳の子を心中に誘う話を美しく描くのでひどく胸がざわつくし倫理的にアウトだったがその美しさが果てしなかった。
この「美しい」ということがマリーにとっても、ルドルフにとってもある意味では枷になったり、命を落とす要因にもなったのかなぁと考えたりもした。
一人は未成年で一人はまだ30歳の人が、死によってでしか救済されない世界というのも本当に息苦しい、家父長制を倒そう。
「ENCHANTEMENT(アンシャントマン) 」は華やかで見やすいのにテーマがはっきりしてるショーだった。
香水瓶の様なキラキラした衣装とセット、ダンスに見入った。シャネルの5番のトップ二人のダンスが特にかわいい。

2月

宝塚月組 応天の門/Deep Sea

応天の門
原作は序盤しか読んでいないのだけど、物凄く原作の要素を慎重に抽出して、丁寧に舞台化していた。
あと、驚くほどテンポが良い!!さくさく話が進むからストレスフリー。かなり好きな舞台。
月城さんの三白眼のように見えるアイメイクは一つの発明だと思った。
月城さんと海乃さんは「グレート・ギャツビー」で初めて観たトップコンビだったが、恋愛関係にならない、腐れ縁のような今回の関係のほうがすっきりしていて良いなと思った。
「Deep Sea」
海底を舞台にしたラテンショー。
ぎらぎらした衣装や、耳に残る歌の数々で大変好み。
ただ、ラテンをテーマにしているからと言って演者が茶色系のドーランを塗るのはブラウンフェイスだし、人種差別的なので即刻やめてほしいと思った。

木ノ下歌舞伎「桜姫東文章

終わり方が、元の歌舞伎だと家父長制に吸収されて終わりなのに対し、それを蹴飛ばすような爽快感があった。
残月を演じていた方の荒川良々さんみ+くまのプーさん+フーテンの寅さんみが良かった。残月と長浦のニコイチっぷりが好きだった。
成河独特のチャームを封じて演じていたのも面白かったけど、立ち回りになって歌舞伎みが増すあたりでどうしようもなく魅力がのぞいてた気もする。
お十が気だるげに白いポーチ振り回して踊って?たのは何?何かの翻案?

桜姫、最後にようやく自我に目覚めるシーンがある他は、女郎屋に売られるシーンで無反応だったり、その場にいる一番権力の強い大人の言うがままになるシーンも多くて、それが彼女の生存戦略だったんだろうなと思ったし、一体どんな気持ちなんだろ?と不思議にもなった。
大向こうも舞台上の役者がやるんだけど掛け声が面白かった。ポメラニアンいなげや、べにや、豆腐屋、などなど。

近未来の若者たちがとりあえず「歌舞伎」なるものを演じてみている、と思うと演技のばらつき、間延びした発声や抑揚のない声も納得できる気がした。
歌舞伎を脱構築したい、という試みは分かるのだが、大変長く感じて、単純に好みではなかった。
青トカゲ煎じる場面が永遠に続くかと思うくらい長くて、あそこが一番きつかった。

3月

・バンズ・ヴィジット
・宝塚宙組 カジノ・ロワイヤル

バンズ・ヴィジット

日常という名の重力を一時忘れられる話だった。というか、忘れられると信じる話だった。
ちょっとしたことでその日の印象ががらりと変わるということや、人と共にいることの難しさや、共にいるだけでいいという瞬間について丁寧に地道に描いていた。

本編後、舞台に音楽警察隊として出ていたミュージシャンの皆さんによるコンサートもあってそれも贅沢な時間だった。
こがけんさんの歌がかなり良かったし、マイナスな要素かな?と思った風間杜夫さんの歌も「久しく歌ってないおじさんの歌」と考えるとかなりぴったりだった気がする。
終盤のディナとカーレドの急なキスシーンは、孤独を埋めるための衝動で、そこにたまたまトゥフィークが居なかった、ただそれだけのことなのかなと思った。
ミュージカルの輸入版CDと、ヴァイオリニスト役の太田惠資さんのCDを買った。個人のアーティストのCDはトルコ・シリア地震の支援に全額寄付されるとのことだった。

宝塚宙組 カジノ・ロワイヤル

テンションとしては「カジノ☆ロワイヤル」か、「カジノ・ロワイヤル♪」だった。
ミュージカルで「イルカは高等生物〜」という歌詞が出てきたのには度肝を抜かれた。
イアン・フレミング側はこの台本を読んで上演OKしたかが気になる。
イルカが人間を愛してるかなんてイルカにインタビューでもしない限り分からないじゃん、と思ったので脚本家とイルカの解釈違いだった。
ヒロインのデルフィーヌ(潤花)が「最貧国に学校を建てる」という夢を語る一方で、ルーレットに触るためにホテルのメイドにお金を渡して買収するシーンが普通に何のつっこみもなく描かれるのでその矛盾にクラクラした。

4月

  • ブレイキング・ザ・コード

ブレイキング・ザ・コード

アラン・チューリングの生涯を描いた演劇。
チューリングが受けた療法は明らかに間違ってるし、あってはいけない事だけど、19歳の少年を買春するのも私としては受け入れられない事で、演出でそれを切なく描くのはどうにも受け入れがたかった。
主演の亀田佳明さんの演技はとてつもなく素晴らしく、チューリングの能力の高さもいけすかないところも全部出し切っていた気がする。
チューリングが人のケアをしないけど、他人にはそれを求めてくるのは普通に「搾取」だな……と思って観た。
あと、結婚して子供がいる、かつて自分に告白してきた相手に「僕も君と結婚するべきだった」と言うのもかなり引いてしまった。

終わって一番に感じたのが「人と人とは分かり合えない」だったので、「肉体が失われても心は残るのか」「思考する機械は存在可能か」を考え続けたチューリングの人生を、「幼い頃に先に死んでしまった親友(もしくは初恋の相手だったかもしれない人)への思い」という分かりやすい理由で理解した気になって良いのか、というのが気になった。

後日、気になったので戯曲を買って読み、数学を研究している夫にも読んでもらった。
夫の感想が面白かった。簡単に書くと
チューリングは、人間の思考を計算の連続と捉えていた
・機械が感情を持つか?という疑問が出てくるのもこれが前提
チューリングは「人間の感情」が理解できなくて、だからそれを数学的に捉えて定義し、理解したかったのかもしれない
というもの。もっと知識をつけて再度のぞみたい戯曲だった。

5月

宝塚雪組 ライラックの夢路/ジュエル・ド・パリ!!

まとめると鉄道ミュだった。
生誕150周年ということで「小林一三先生ご生誕おめでとう🎉🎊🎈」という幟が見えるようだった。ここが明治座なら立っていた。
関税同盟が締結されてあんなに喜び踊るタカラジェンヌ 達、史上初では?
イルカ礼賛に続き、鉄礼賛ソングが聞けた。全体的に衣装は素晴らしい。
演出・脚本の謝さんのやりたいこと(鉄道による輸送力アップ→経済の活性化こそ近代化である、女性の自立の大切さ、自尊心が高すぎると大変問題、家族の絆、マイノリティに対する差別、階層による貧富の差、シスターフッド)それぞれかなり切実な問題なので一つにまとまりきらなかったのではないかと思う。

しかし、職業における性差別問題(エリーゼが女性だからという理由でオーケストラの面接で不合格になる)が、「女性ならではの感性」とやらで別の仕事を得ることで解決してるのか?と思った。
この問題はいまでもあるんだから安易な解決を劇中で示さない方がいいと思う。
主役のハインドリヒ、「最初は兄弟で事業が出来たらいいと思ってたけど、鉄道事業で国のみんなを救う!」と言い出した時も?????だったが、エリーゼが女性だからオーケストラ落とされたと話したら「好きだ」と告白したり全体的に大変唐突な人間だった。

ジュエル・ド・パリ!!は、めちゃくちゃ可愛いレビューだった。和希そらさんの腹筋がすごすぎる。
衣装の色のトーンが統一されていて観やすかった。宝石というテーマも良かった。

ザ・ミュージック・マン

主役の坂本さんの人好きのする笑顔が詐欺師の役にぴったりだし、いちいち魅力的で素晴らしかった。
全体的に歌い上げるのが難しい曲調だったのだけど、子役含めみんな安定感あって聞いててほっとした。
冒頭の列車ラップが凄まじい技術力で目が丸くなる。素晴らしい。これだけでチケ代の元がとれたかも。
車が登場したことでセールスマンの必要性が危ぶまれるようになった時代という説明と、ハロルド・ヒル教授という詐欺師の説明も兼ねていて導入としては最適。構造は、「イン・ザ・ハイツ」に近い。

ハロルド(坂本さん)とマリアン(花乃さん)がラスト付近で歌う「Seventy Six Trombones」と「Goodnight, My Someone」、明るい曲としっとりした曲で正反対なのに実は同じ旋律だったってことがわかる仕掛けになってて、相手の曲を歌うことでハロルドのマリアンへの気持ちが膨らんでいく様を表してて、これはミュージカルでないとできないなぁと思った。

列車のリズムが歌のリズムになる「Rock Island」とか、あるメロディーが出てくる+別のメロディー出てくる→途中で一つの曲になるという作りが多くて面白かった。

舞台装置は街をドアで表現したり、図書館のセットも凝っていた。藤岡さんも山崎さんも歌える人だからもうちょっと歌えるナンバーあっても良かったかも。
時代的や作品が作られた時代的にそういう描写になるんだろうけど、結婚してない独身女性への差別だったり、女性キャラクターのステレオタイプな描き方(婦人会の女性陣がおしゃべり、とか)は気になった。
あのラスト、本当に演奏できたんじゃなくて街の人たちにはそういう音楽が聞こえた、という様に見えたんだけど、他の人の感想も気になる。

ラビット・ホール

子供の手が届くところに花瓶が置いてある=この家にはもう子供はいないってことが舞台装置でわかるのがすごかった。
宮澤エマさん演じるベッカがする、相手に罪悪感を抱かせるような責め方が本当にリアルだった。
こういう人いるなぁという人物造形×5人……。
翻訳にこだわっただけあって、話し方がみんな自然だった。
1幕終わりに一緒に観た友達と「ハウイーはビデオの爪折っとけ!!!」と盛り上がった。
それぞれの抱える痛みを、台詞や演技だけでみせていくのは興味深い。

ベッカは専業主婦で息子のダニーといる時間が長く、その分思い出も沢山あるからダニーを思い出す(物や犬を見る)のが辛く、ハウイーは逆にダニーを思い出させる物に縋ろうとしているのが対照的。
私も自助グループに行っていたことがあるんだけど、ベッカが「自分の痛みを共有できない」と感じたのも、ハウイーが行き続けてることも両方分かる気がした。
自助グループは癒しももたらすけど、自他の境界を知る場所でもあるからしんどい時はしんどい。

犬の扱いがすごく気になって、可愛がってるという割に忙しいからフードをあげるの忘れたりものすごく引っかかる。フードと水は絶対忘れちゃだめ……。

チルダ

原作が好きで行ったミュージカル、大満足の出来だった。
「どの子も親にとっては奇跡」という事を皮肉って始まって、最後は血縁によらない絆のあり方と、やはり「どんな存在もそこにいるだけで奇跡」という事を描くのがすごい。
「あなたはそこに居るだけで奇跡だよ」という事は、血縁関係のある実の親でなくても大人が子供に伝えられるのでは?という話にも思える。

チルダが自分が両親から受けてるネグレクトとか、暴言のことをハニー先生には言えるシーンでじーんとした……それまで誰にも言えなかったことを打ち明けるシーン。
脱出名人の話が入れ子構造になっているのにもどきどきした。
あれはハニー先生の物語であり、マチルダの望みでもある。

7月

  • ある馬の物語
  • 宝塚花組 鴛鴦歌合戦/GRAND MIRAGE

ある馬の物語

現在の建築現場のようなセットで始まるお芝居。
主役のホルストメール(成河)は、足の速い名馬だったが人間の嫌うまだら模様があったため、価値のない馬と見なされ、軽んじられていた。
将軍の家で生まれた彼が成長し、ある出来事があって、彼は去勢されてしまう。ホルストメールは、それ以来、考えることが多くなり、周囲の人間を観察していく。
老いた彼はやがて飼い主の命令で首をかき切られ死ぬ。
その死骸は動物に食べられ、骨の一部が残るが、それすら農作業の道具になった。また、かつてホルストメールを飼っていた公爵の死骸は飾り立てられて埋葬されたが、誰の役にも立たなかったことが語られる。

公爵をそりに乗せて走るホルストメールのシーンがシーソーの様な動きで示されて躍動感がすごかった。
「所有」が一つのキーワードで、ホルストメールと公爵が対比されているのは分かった。
死んだ後も誰かに所有され利用されたホルストメールと、最後まで自分をだれにも所有させなかった公爵の違い。

宝塚花組 鴛鴦歌合戦/GRAND MIRAGE

鴛鴦歌合戦は、めちゃくちゃハッピーな和物オペレッタ
とにかく歌う歌う。トップのお二人が最後に頬をくっつけて微笑みあっていて可愛い。
聖乃あすかさん演じる殿様の弟君がほわほわしてて可愛かった。
GRAND MIRAGE!は、幻想的でパステルカラーに統一されたショー。ふわふわした印象が強くてあまり好みではなかった。私はギラついた強めのショーが好きみたい。

8月

  • 兎、波を走る

兎、波を走る

野田秀樹の新作。
モチーフになった出来事が明らかになったあたりで冷や汗が止まらなくて、初めて途中で劇場を出ようかと思うくらい直視するのがつらかった。
AIの存在が、劇中で描かれるもう一つの出来事とどう関係するかがまだ自分の中でつながらない。
フェイクスピアの時はイタコというモチーフが死者の言葉を代弁する者、ということで劇中の出来事と繋がったんだけど、こちらの方が難解かもしれない。
とにかく松たか子が「現れる」時、高橋一生の「場に居る」時の上手さが凄まじい。

9月

  • 闇に咲く花
  • 宝塚月組 フリューゲル/万華鏡百景色
  • SHINE SHOW!
  • 桜の園

闇に咲く花

国家神道神社本庁への批判、戦争と戦争がもたらしたものに対する鎮魂の話に思えた。初演が1987年。それから情勢が良くなってるとは到底思えないのが哀しい。
松下さん、浅利さんの球を山西惇さんが全部受け止めてて、この部隊の屋台骨は山西さんだなぁと思った。

田中茂弘さんと占部房子さんが特に良かった。田中さんの登場時から場にもたらされる緊迫感と異物感がすさまじい。
占部さんは「ミセス・クライン」の時の演技も素晴らしかったけど、場にいる時の自然さとか、凜とした感じが大好き。
「頭痛肩凝り樋口一葉」に出ていた増子倭文江さんをまた観られて幸せだった。
舞台俳優には「現れるのが上手い人」「その場に居るのが上手い人」「立ち去るのが上手い人」がいると思うが、闇に咲く花は「その場に居るのが上手い人」ばかりだった。

宝塚月組 フリューゲル/万華鏡百景色

反共主義者だった小林一三の作った劇団がやる社会主義の国(東ドイツ)の話だと思うと何だか皮肉な気もする。
対等で言いたいことを言い合う関係のトップコンビの感じが最高だった……終盤のあの合唱で泣きかけた。
風間さんの、出てくるだけで場を明るくする力が本当にすごい。
前回の応天の門から礼華はるさんが気になってたのですが今回も筋肉大好き軍人を可愛く演じてて大変良かった。
演出・脚本の齋藤さんの翼への執着と、要素をめちゃくちゃ詰め込んでくるところと、舞台に立つ人たちへの愛を感じられる。
親への葛藤を抱えた子に「許せ」とは言わずに「対話しよう」という匙加減も素晴らしい。

万華鏡百景色は、宝塚の歴代ショーの中でも歴史に残る作品。
引き裂かれた花火師と花魁の男女が何度も転生して巡り会う物語仕立てのショー。
あらゆる場面が素晴らしい、口開けて観ちゃいそうになる。風間さんの点灯夫が可愛い。銀座のシーンが最高。地獄変も最高。
私の大好きな三文オペラの「大砲ソング」を歌詞変えて歌ってくれたので満足だった。

SHINE SHOW!

複合ビルのカラオケ大会(新宿三井ビル 会社対抗のど自慢大会がモデル)で巻き起こる騒動を描く。
前半ゴタゴタ→それを乗り越えて後半熱唱という流れがお約束だけど心地よい。
特に木内健人さんと中川晃教さんは圧巻!
全体的にずっと薄っすら楽しい、という舞台で今年観た中でもお気に入り。

桜の園

森ノ宮ピロティの椅子が過酷すぎて腰が痛すぎ、1幕で帰った。いつか座席もトイレ環境も改善してくれ……!
ロパーヒンのいう生存戦略が桜の木を切り倒してリゾート地として開発するという、今の神宮外苑の開発と重なるもので、短期的な窮地を乗り切れても長期的な財産を失うという提案なんだなぁと思った。まぁラネーフスカヤやガーエフに長期的な視野があったかというと無いのだが……。
コメディとして演出されないと、老いとか死の気配がひしひしある芝居。みんなが人の話を聞かないのも老いの兆候に見えた。

以前、三谷幸喜版を観た時はガーエフ役が藤木孝さんで洒脱だったのだが、今回の松尾貴史さんも大変いい声で良かった。
舞台装置のドライさと、子供の死の強調というウェットさが明らかに噛み合ってなかった気がする。
やるなら徹底的にドライに突き放してやって欲しかった。

10月

  • スリル・ミー(松岡山崎ペア)
  • スリル・ミー(木村前田ペア)
  • アナスタシア
  • ロジャース/ハート

スリル・ミー(松岡山崎ペア)

松岡さんの「私」が前よりナードになっていた。
松岡私、優秀で頭の回転が早くて周りから浮いてる人物像で、そういう人に目をつけられた背伸びした19歳の山崎彼が気の毒だった……。
お互いコミニュケーションが成立してるけど蔑ろにしているので哀しく見える。
「俺が一番嫌いなやつ」
「……僕?」
の場面で、松岡私には(どうせ自分のことが嫌いなんだろ)という諦めが見えた。

最初のバードウォッチングのシーンで鳥を見つけてかぶりつく様にスケッチしてる松岡私、執着する対象に対するエネルギーがそもそもでかい人って感じで良かったし、「君の弟に聞いた」って言ったら山崎彼が露骨に不機嫌になったのを見て「ひっ」ってなるのも良かった。
また、54歳の時の語りが、全力で山崎彼を捕まえてそれに全人生を費やした後の燃え尽き感が出ていた。
99年の後に、目に涙が滲んで、仮釈放を告げられる前くらいに目元をぬぐっていたのが印象的だった。
山崎彼の冷たくて綺麗で意地悪な、年より大人に見られたい19歳の子供って感じが全部松岡私から見た、理想化された彼なんだなって感じがした。

スリル・ミー(木村前田ペア)

19歳のシーンは本当に19歳に見えたし、その時言ってることは本当に「思ってる」様に見える演技だった。
最初、木村さんは歌を歌として歌ってて、前田くんは台詞の延長で歌ってる感じであれ?ってなったんだけど「スリル・ミー 」の所で同じ様なベクトルの歌い方に変わった気がした。
(後、木村私がだんだんテンションをあげるのが上手い)
前田彼が本当にプライドが鬼の様に高くて、木村私を対等に思ってない(優しく話しかける時も思惑があるか、ただいなしてるだけ)のが分かるだけに、初めて序盤の私を可哀想に思った。
山﨑彼は私が離れていったら何だかんだで引き留めそうだけど、前田彼は離れたことにも気がつかなさそう。

護送車の中で「君を認めよう」って前田彼が歌ってる時から木村私が目を潤ませながら笑ってそれを聞いていて、本当に彼のことが好きだったんだなぁ……って改めて思った。
木村私が前田彼の弁護士になる夢を聞いた時に一瞬真顔になり、その後すぐ破顔して笑顔で「そうなの……知らなかった」って言うのがもう、ネタばらしが始まってる感じがした。
木村私が「怖くなったか?」って聞いてる時、目から涙が溢れてて、圧倒的に間違った手段で、彼を手に入れるために出来ることを選んだ末にこんなことになってしまった、取り返しのつかなさを感じた。
あと、54歳の私の目の死に方(ふっと目から光が消える)のは照明の当たり方とか立ち位置も計算してる?すごかった。

前田彼のスポーツカーのシーンは歴代のスポーツカーのシーンで一番好きだった。
本当に年の離れた弟がいるかの様で、普段から子供に触れてる人ならではの懐柔の仕方で。すごく良かったし、ぞっとした。

アナスタシア

背景の写真のような映像が最後に絵本のようなものに変わるのが、これはあくまでロシアという国が負った傷を癒すおとぎ話なんだって思わせてくれる。
We’ll Go from Thereが特に素晴らしい。宝塚版と一番歌詞が違うのがこれかな。禅さんヴラドが明るいクズでとてもよかった。
海宝さんのディミトリ、根がすごく良いやつなのが伝わるディミトリですごく良かった……。
太后とアーニャを外で待ってる場面で、アーニャが皇女だと認められると彼女を失うのだとはっきり自覚する時に目が潤んでて大変良かった。
木下さんのアーニャと、海宝さんのディミトリ、くしゃっと笑うところがすごく似てて悪友のように2人で楽しそうにしてる姿が印象的。禅さんのヴラドも加わると悪友3人組って感じ。
最後の田代さんグレブをみて、父権に縛られるということは、一種の暴力性に縛られるということなんだなと思った。
だから最後のアーニャとグレブは父権からの解放(暴力からの解放)を意味してたのかなと思う。棺が出てくるのもそういうことなのかと思う。

宝塚宙組版では気づかなかったけど、登場人物が集うバレエの場面で出てくる演目が白鳥の湖なのはアーニャ=オデット、ディミトリ=ジークフリート、グレブ=ロットバルトだからなんだって初めて分かった。
あと、ヴラドとディミトリが用意したアーニャへのぬいぐるみが宙組版に比べて絶妙に要らないデザインになってたのが良かった。紐みたいな手足。

ロジャース/ハート

主役2人がしっかり歌えるし、安定してるので周りがどれだけわちゃわちゃしてても大丈夫な感じだった。
藤岡さんの酔っ払い演技→美声の落差。皆でタップダンスも披露してくれて楽しかった!
元はレビューショーらしいので話はかなりあっさりしてる。

11月

  • スリル・ミー(尾上廣瀬ペア・配信)

スリル・ミー(尾上廣瀬ペア・配信)

廣瀬彼、まばたきしてほしい。
すごく「ミュージカル」をしようとしてるペアだなと思った。こんな事で彼を手に入れられると思った松也私が悲しいし、愚かだなと思った。

12月

  • 宝塚雪組 ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル/FROZEN HOLIDAY
  • クローズ・ユア・アイズ

宝塚雪組 ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル/FROZEN HOLIDAY

朝美ホームズに悪魔の仮装をさせようと思った演出家・脚本家と握手したい。
自分のイマジナリーフレンドとの出会いと離別を通して、自分らしさを再発見する話。
一点不満があるとすると、ホームズファンが女性だらけなところ。男もいたでしょ……。
あと劇中、ホームズファンが無茶な要求を編集部にしてくる描写もあるので、余計熱狂的ホームズファン(シャーロッキアン)をすべて女性として登場させるのはジェンダーバイアスでは?と思った。
あえてこの書き方をするけど「ミーハーなファンはすべて女性」という表象に見えてしまう。

アーサーとルイーザがキスする時にホームズが「僕がお邪魔みたいだね……」って言うところが可愛かったんだけど、別の回を観た友人曰く、日替わりのセリフのシーンらしい。
劇中だとルイーザ一筋に見えるドイルも、現実は病床にいる妻とは別の女性と不倫してルイーザが亡くなった翌年に結婚したんだよなぁ……と思うと劇中の仲良い夫婦が切なく思えた。
多趣味なコナン・ドイルの内面を表す様に、ホームズの姿も変装時のものを含めて多様であったのはすごく良かった。
宙組シャーロック・ホームズも観てると、モリアーティと鎖の組み合わせが再登場してわらった。
物語は人を縛ったり救ったりするけれど、物語がない人生はありえない。

FROZEN HORIDAY感想
・DJ縣千さんにターキーレッグのギター弾かせた時点で優勝
・トナカイの娘役さんをはべらせる朝美絢サンタ
・和希そらにお別れの場面を作ってくれてありがとう……
・超越雪祭男!???!!
・ワイルドホーン提供の曲前で唐突に映像くるのでわかる親切仕様

劇団は皆さんの労働環境の整備、労働時間の管理、ハラスメントの防止を徹底してほしい。
安全安心な環境で作品づくりをしてほしい。
彼女たちが一刻も早くこころ安らかに次の年を迎えられますように。

クローズ・ユア・アイズ

久々の劇団キャラメル・ボックス生観劇。
日本に向かう船の中で死んだ男が、何故か息を吹き返し、死んだ体のまま震災で姿を消した恋人を探す話。
初演から23年経っての再演らしい。
書かれた年を考えると、おそらく阪神大震災のショックから沢山の「死」が舞台に登場する群像劇になったんだと思う。
これだけ多くの「死」が出てくる舞台なのに何故か底が明るい不思議。
ただ、あまりに登場人物が多く、話も並行して色々進むので主題(死の受容と、人と共にいる難しさ・意味)がぼやけてしまっている気がした。

死ぬ人には1人、天使が付き添うという設定が良かった。最後の場面であぁ、これはクリスマスの奇跡の話なんだと改めて思った。
あと、キャラメル・ボックスのオープニングのダンスシーンと曲の良さは本当に良いと思った。