演劇事始

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魂を自由にせよ――『豚小屋』

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人を辞め、ひとへ戻る

 

 2017年1月7日@新国立劇場(主演:北村有起哉田畑智子

 

ネタバレを含みます

 

軍隊から脱走した男が妻に協力してもらい、家の豚小屋に数十年隠れ住む話。

全体を通して、人間から逃げ出した人が、人間の中に戻ろうとする話だと感じた。

汚臭漂う豚小屋で忍び隠れる自身の不幸を嘆くパーヴェル(北村)と現実的で冷静なプラスコーヴィア(田畑)のやり取りは壮絶なのに俗っぽく、時には呑気で笑えて、ある場面まで何処かアルコール依存症の夫とイネイブラーの妻みたいにも見えた。

栗山民也さんの演出はずっと好きなのだけど、この人はすごく役者のことを信じているのだろうなと今回感じた。顔を見せずにそこに無いものを有る様にみせられると信じている人、というように思う(栗山さん)

北村有起哉の、さっきまで熱っぽく自分の感情に酔っ払って喋ってたのにいきなり凄みある声に変わって暴力を見せる人に変わる、そういう自然にくるっと切り替える所や、田畑智子が豚小屋の扉を閉めるとき、観客に顔を見せないのに毎回顔が想像できるように立ち振る舞う所が本当にご両人お見事で、最高。

 

(お話の流れと感想)

「豚小屋」、季節も年月日も特に明言されないお芝居なんですが(ロシアが舞台だということは明らか)とても静かに始まります。

1場

何も音楽が流れずひっそりとパーヴェル(北村有起哉)が舞台隅から姿を現して演説の練習を1人しているところから始まる。
この時の北村さんが本当に自然にいつの間にかそこに最初から居るように出てくるのが地味に凄い。

薄汚れた木の床には汚れているだろう藁が散乱し、小さな出入り扉以外は板を打ち付けふさがれた豚小屋。光は壁の隙間から差し込む3,4筋だけ。豚の鳴き声はほぼ絶え間なく聞こえる(豚達は柵の中という設定なので観客には見えないようになっている)。
パーヴェルは練習しながら豚の鳴き声に苛立って棒で豚を殴りまくったりする。
 彼に呼ばれてプラスコーヴィア(田畑智子)が小屋に入ってきて段々と観客は状況がつかめてくる。
彼らが暮らす村では戦勝記念日の式典が今日、開かれ戦死者の慰霊碑の除幕?がおこなわれる。その式典で戦死者として扱われている自分の名が読み上げられた時に、10年間脱走兵として豚小屋に隠れていたパーヴェルは姿を現し、村人や軍関係者に許しを請う予定なのだ。そうしてこの過酷な潜伏生活を終わらせるつもりらしい。
 どうやったら村人達の同情を買えるか、彼は何度も何度もスピーチの内容を検討する。プラスコーヴィアも助け船を出す。

彼が10年前、脱走してこの家にたどり着いたとき、ほとんど口もきけないほど衰弱し凍死寸前だったこと。

やっとスープで舌が溶けたと思ったらまず、「俺の赤いスリッパを持ってきてくれ」と頼んだこと(ここでプラスコーヴィアは白けた顔をする)。

スリッパを持ってくるとそれを胸に抱いて泣き始めたこと。
そして胸に抱いたまま、豚小屋によろよろと入ってそのまま寝てしまったこと。

こういった悲惨な事実を伝えれば、きっと赦して貰えるのではないか、と。


パーヴェルは自由な身の上になったら母が作ってくれた、美しい刺繍が入ったスリッパを履くつもりで大事に取っていた。
妻は「今ここで履いてご覧なさいよ」と言うが「お前はちっとも分かっていない、こんな汚いところで履けるようなスリッパじゃ無いんだ」と一演説をぶつ。
 しかし、緊張と昂揚で高ぶっている夫と反対に、プラスコーヴィアは本当に村人が夫を許すだろうかと気が気でない。
パーヴェルは釈明の際、軍服を着ていこうとするがプラスコーヴィアは「結婚式で着た黒のスーツなら用意してある」と出すのを渋る。
10年の間にプラスコーヴィアはその古着から布を切り取り雑巾に使ってしまったのだ。穴だらけのぼろぼろの軍服を着てみるがおかしすぎてこれでは着ていけない。
 次第にパーヴェルはやはり出て行けないと諦める。「自分はずっとこんな小屋に居て、人間が本当はどういう生き物なのか忘れちまったんだ、赦してくれるわけがない」
そして、妻に式典で自分の戦死を嘆き泣く演技をするよう頼む。
信仰深いプラスコーヴィアはこの嘘で自分達の魂は地獄に落ちると嘆き、その場で祈って小屋を出て行く。


やがて彼女は喪服姿で戻ってきて、ソ連の旗を嬉しそうに振りながら役目をやり遂げたことを話す。
式典ですっかり愛国心を昂揚され帰ってきた妻にパーヴェルは白けた態度を取る。妻は自分が重い役目を果たしたことにすっかり安堵し、周りが自分を未亡人として哀れみ抱きしめキスをし同情を寄せてきたと嬉々として話す。
虫が好かない村人の一人などは帰り道、彼女に再婚を申し込んだほどだった。「今日があんたの苦しみの終わりの日だ」とプロポーズを再現してみせる。人民委員の演説も素晴らしく、戦死した兵士達のおかげで今自分達はこうして生活が出来るんだ、と感激し「あんたが本当に死んでしまったかと思ったくらい!あんな演説の後になんてとてもじゃないけど出て行けなかったわ」とソ連旗を夫の胸ポケットにさしてみせる。
 勿論、外の世界の話をそうやって話されたパーヴェルは気に入らず、自分を憐れみ始める。プラスコーヴィアは暫くそれを聞いているが、ついに「汚れ物が山積みなの」と話し、出て行こうとする。
「そういう風にか」
「そういう風によ」
プラスコーヴィアが出て行き、彼は1人豚小屋でスリッパを胸に抱きながら今は亡き母親に
「この赤いスリッパをもう一度履きたいと思ったが為に自分はとんでもない間違いをしでかした」と語りかける。
 パーヴェルが逃亡したのは戦争中、寒さと飢えに苦しむ中で自分の内側の声「家に帰れパーヴェル、赤いスリッパが待ってるぞ」に従ったからだった。
自分より大きな男が夜になると母親の赤いスリッパの話をせがむ。彼は徴兵されたての頃はパーヴェルの話を馬鹿にして笑っていた。そんな話ですら男達は黙って火を見つめながら子供のような顔で聞きたがる。軍隊生活が3年を過ぎると何時になったら帰れるのか、みなが不安で寒さと固いパンしか食べられない飢えに苦しみながら思っていた。
自分がした事はそんなに悪いことだろうか。寒さでほとんど気が狂いそうだったんだよ、母さん。
パーヴェルはスリッパを抱きしめながら話すのだった。

 

2場
 パーヴェルの格好からして今は恐らく夏。彼は虚ろな目で小屋にたかる蝿をナイフで殺し続ける。
長机(長椅子にもなる)の上にはあの赤くて綺麗だったスリッパがすっかり薄汚れて小屋と同色になって放られ、その片側だけパーヴェルは履いている。それで嘗ての彼の夢が潰えたことが示される。
 やがて、小屋に美しい蝶が入ってきたのがマイムだけで示される。蝶を見られた嬉しさで、久しぶりに笑い声を上げる自分に驚き、妻の名前を呼ぶパーヴェル。
「お前はこんなところに居ちゃいけない、外に出て俺の魂の欠片だけでも一緒に連れて行ってくれ」と逃がそうとするがその蝶はあえなく豚に食べられ、彼は激高して豚をナイフで殺す。
 大きな物音に驚き、妻が入ってくる。血だらけの夫を見て自殺したのかと思い込むが生きていてほっとする。
濡らした布で血を拭ってやりながら話を聞くと、パーヴェルは熱っぽくあの蝶は無垢な少年だった自分の象徴なのだ、と語る。自分はこの小屋の中で唯一の美しいもの、蝶を見て久しぶりに声を上げて笑った。
「あんたが笑うの聞きたかったわ。結婚する前聞いた声。すごく素敵な笑い方するもの」
「俺はお前を呼んだんだよ」
美しいものが獣に食われ、糞になるのを見て自分の人間らしさは台無しになった、ここで蝿を殺すことしか出来ず、その数を数えて生きるだけなのは地獄にいることと同じだ、それが自分への罰だ、と自己憐憫を始める夫に対し、
静かに妻は「地獄は死んだ人間が行くところ」という。
その言葉にお前は俺の気持ちがちっとも分かってない、と怒りあのスリッパを豚の居る柵に放り込むパーヴェル。
自分の人間らしさなど食べられて豚の糞になれば良い。と投げやりなことを言う。
「俺は豚共を率いて社会を作ってやるさ、こいつらを扇動して革命でも起こさせようか」と自棄になる夫に
「お節介をするつもりはないけれど、一つだけ聞かせて。そんなことをして何になるの」と静かに言う妻。
「今日はキャベツのスープと蒸し団子を作っていたのよ」
「・・・・・・蒸し団子の薬味に使うアニスの実は足りているのか」
「足りているわ」そんな日常の会話をして何となく場がおさまる。

 

3場
2場より更に具合が悪そうなパーヴェルが寝ている。プラスコーヴィアはそわそわしながら蝋燭に火を灯し夫の世話を焼く。暑くて呼吸がしづらいと訴えるパーヴェル。
 どうしても、少しだけでも外に出たい。
そう願い、計画を立てて貰ったパーヴェルは妻に懺悔を始める。
自分はお前と結婚した時、見かけだけは立派なスーツを着ていたがそれだけだった。
軍服を着て手を振って家を出ていく時も軍服を着ていただけだった。
その卑下の仕方にあまり取り合わず、プラスコーヴィアは自分の洋服(赤いダマスク柄?のワンピース)を夫に着させ、夫は女に変装して村が寝静まった夜中にそっと外出することになる。そんな準備の時ですら妻に鏡を持ってこさせ、ブローチがあった方がいい、など細かく注文をつけるパーヴェル。妻はイライラしながらもブローチをつけてやり、あんたは私の親戚で一言も口がきけないってことにしましょうと万が一誰かと会った時のために設定を確認する。

 小屋を出て散歩をする2人。舞台から下りて客席の通路でやり取りをする。
外の世界にいちいち感動して大声を出す夫に妻は見つかってしまう!と注意をしながら歩く。
星・野バラ・野バラの香りを運ぶ風。
そんな自然に心を揺り動かされたパーヴェルは妻に「このまま2人でこの道を進んで違う街へ逃げよう」と誘う。
今のまま豚小屋で生き延びるよりは外の道の溝の間で死ぬ方がいい、と言うパーヴェルをプラスコーヴィアは突き放す。
 このまま女の格好で逃げてもあんたは溝では死ねない。牢屋で死ぬか、軍法に背いた罪で銃殺されるかだと。
行きたいなら1人で行くしか無い。自分は行けない。ここでせめてあんたに小さく手を振ってあげる。さぁ行きなさいと。
 1人で道を進むが途中で引き返し、パーヴェルは妻の膝に縋り付く。
「せめて此処で一緒に夜明けを見てくれ」と頼む。プラスコーヴィアは硬い表情でそれを断る。村の半分は夜明けと共に起き出して仕事を始める。ここに居れば見つかる。自分は家に帰ると。
夫は「お前が俺を置いていけるはずが無いんだ!」と大声を出すが妻は静かに家に帰っていく。
パーヴェルは暫くその場に立っているが辺りが白み始めると妻の名を小さく呼んで後を追いかける。

 豚小屋にプラスコーヴィアが帰ってくる。蝋燭に火を灯し、静かに座っている。高ぶった感情を抑えようとしているように見える。パーヴェルもやがて騒がしく音を立て戻ってくる。
服を乱暴に脱ぎ捨て、
「あの時、お前が少しだけでも俺を励ましてくれていれば、俺は外に出られたのに」と妻を詰る。
「お前にとって俺はこいつら豚と変わらない。お前のお気に入りだから餌が上等で服を着せているだけだ、俺は今からこいつらと同じになる、今日から俺は豚だ」
とほぼ裸のまま豚の囲いに入り豚の真似をしてみせる彼の横で妻は初めて激しく怒る。
これはひどい侮辱だわ、私は人間と結婚したのよ、豚とじゃない」
そして彼女は跪いてイエスに祈る。
「このままでは私は夫にとんでもないことをしてしまう予感がします!お赦し下さい!」
祈る間中、豚が踏んだ汚い藁を妻に投げ続けるパーヴェル。
プラスコーヴィアはついに立ち上がり、豚を叩く棒を握り夫を何度も打ち据える。
「あんたが人間の言葉を話すまでやめない!」
ついにパーヴェルは妻の名を呼び、柵から出て立ち上がる。
夫にバケツの水を思い切りかけて妻は呟く。
「パーヴェル、あんた二本の足で立って喋ったわ。あんた人間よ」
「私が出来るのはここまで」
そう言い残してプラスコーヴィアは小屋を出て行く。パーヴェルはずぶ濡れのまま、立ちすくんで俯く。

 

4場
毛布にくるまったパーヴェルが長椅子に座り、鏡を掲げ自分の顔を見ながら延々と自身と話し続けている。
と、思いきやどうも人民委員、という言葉が出てきたり軍隊時代の上官と話している調子で新兵のように話すパーヴェル。ついに狂ってしまったのか、と思わせられるような語りぶり。
「豚達が自分を苦しめる」と『人民委員』に訴えるパーヴェル。
「もうお前は彼らを十分に痛めつけた。どうしてお前は彼らを自由にしてやらないのか」
鏡を見つめながらパーヴェルはハっとした顔をしてゆっくり立ち上がり、小屋の壁に打ち付けられた板(歪んだ十字架のように見える)を力を振り絞り外し、肩に担いで床にうち捨てる。
その姿は一瞬、十字架を背負っているキリストのように見える。そして重い扉をやはり苦しそうに押して開けていく。
 
 薄暗く光が4筋ほどしかなかった空間に急に薄い光が入ってくる。青と灰色の中間のような色で照らされた背景と植物。このお芝居で初めて豚小屋から外が見える。
パーヴェルは棒を手に取り、柵にぶつけて豚達に話しかける。もうお前達を殴らない、ここから出ていいんだ。
豚達の鳴き声は急激に高ぶり、足音が連なり、段々と奥に消えていく。パーヴェルはそれを暫く見守って、観客に背を向けて長椅子に腰掛ける。
プラスコーヴィアが白いワンピースに黒みがかったストールを肩にかけ、ランタンを手に持って、そっとやってくる。逃げていった豚達を見ている。
「ここはこんなに静かだったのね。まるで教会の中に居るみたい」
自分ではこんなことを思いつかなかった。どうしてあんたには出来たのか。妻は夫に尋ねる。
「俺はただ一度でも静かに眠りたかった。豚を放したのは人民委員の命令を聞いただけだ。良い兵隊は命令の理由を聞かない」
そう、とプラスコーヴィアは言って
「あんたは私たちの生活の糧を、唯一の財産を全部逃がしてしまったというのに、おかしい、今は何故か歌いたい。」と話す。
「歌。歌は良い。歌えば良いさ」とパーヴェルは穏やかに返す。
プラスコーヴィアは簡単なメロディーを口ずさむ。子供の頃に歌っていた歌。夫もよく知っている歌。
彼女は夫と反対向きに長椅子に腰掛け、
「今度は大声で泣きたい。教会で泣くのはおかしくはないわよね?」と言う。
「泣けばいいよ」と夫は言う。
彼女は全身から振り絞るように思い切り嘆き泣く。暫く泣くと冷静になって顔を上げる。
これからどうするつもりなのか、と彼女は聞く。
「自首するつもりだ」
「警察に?」
「脱走して30年以上も隠れていたんだ、警察なんかじゃだめだ、軍に」
「俺は人間が恋しい。ここに居て、漸く分かった」
プラスコーヴィアは微笑んで、
「惜しいわ。今ならあんたと一緒にあの道を何処まででもついていくのに」と言って彼の着替えを取りに行く。
プラスコーヴィアは1場で言っていた結婚式の黒いスーツをずっと取っていた。
「これだけは何時か必要になると思って」と言って、着替えを手伝う。
パーヴェルは髪を水で撫でつけ、身なりを整える。
「慰めになるかは分からないけど、あの夜見られなかった朝日が今から見られるわ」
プラスコーヴィアとパーヴェルはゆっくり外に出て、徐々に白み始める空を見上げる。
パーヴェルが腕を差し出し、プラスコーヴィアはそれに自分の手を絡める。
結婚式を挙げるみたいに2人は腕をからませて、ゆっくりゆっくり日の出の影になって消えていく。

北村さんの演じたパーヴェル、という男は状況があまりに壮絶だから元々はどういう人だったかというのを差し引かないとみてられない程、機会さえあれば自分の不遇を嘆き、妻に甘え、神を呪い、自己憐憫に浸って詩人のようなことを言う理屈っぽい男なんですが、4場でパーヴェル自身がキリストを思わせるように描かれるのを見ていると人から逃げて人の輪から抜けた存在がもう一度神(鏡にうつる自分自身の内面)と対面することで、再び人の輪に戻っていくお話だったのかなぁと思う。一度は豚になりきって人間であることすら辞めようとしていた人が、もう一度人間になる話というか。
そうやって夢見がちで感情に酔いまくる夫と対照的に田畑さん演じるプラスコーヴィアはすごく地に足がついた、純朴で信心深く芯が強い人として描かれる。彼女の目の前には一人で家を回していく、という現実が常にあって、小屋の中で嫌でも虚無と戦って精神をすり減らしているパーヴェルに全部付き合っては居られない。
でも、そういう強さを持つ彼女一人でも勿論パーヴェル彼一人でも多分、これまで虐げてきた豚を逃がしてやることで自分達自身が自由になる、ということは無かったんじゃないかなと思えます。
全然違う、他者同士で何とか生き抜いてきたからこそ、魂を自由にできたのかもしれない。

 パーヴェルが大事に取っていた赤いスリッパが、ほぼ茶色しかない舞台上ですごく映えて見えていたのに次の場面ではもう色も分からないくらい薄汚れていたりするのが彼らの生活の過酷さを思わせて胸が潰れそうになる。
 特にメイクとか衣装で時間の流れは表現されないので役者達の演技と台詞だけで数十年の年月が経過しているのが示されるんだけど、4場の老人になっている2人がやっと肩の荷をおろして結婚したてのように温かく感情を交流させていたのがすごく良かった。それまでの暴力(肉体的にも精神的にも)とかあまりに辛い逃亡生活をみてきたからこそ、彼らが朝日を2人で見られたこと、それに向かって歩んでいく姿に希望を託さずにはいられなくなる。
 田畑さんが豚小屋の小さい扉を閉める時、ちょうど首から下しか見えなくて顔は分からないんだけど1~4場それぞれでまったく違ったように退場してくし、多分プラスコーヴィアはこういう表情なんだろうな、って想像せずにはいられないようにやってらしたり、4場の豚を逃がした後の大事な会話で北村さんがずっと背を向けて演技していて、でも高く掲げた鏡越しにちらっとだけ表情が見えるとか、栗山さんの演出はすごく細やかに計算されてるし肝心なところを引き算していて、役者を信じているんだなぁと伝わってきた。